食べ物2題

ジャムパン賛歌


 ここのところのマイブームはジャムパンである。先日急性胃腸炎になって、何も食べられなくなってしまい、やっと食べられるようになってから食べたのがジャムパンであった。これがものすごくおいしく感じられ、以来食事で物足りないときはジャムパンを食べている。しかもワンコイン(500円じゃないよ、100円だ)でおつりが来るのだからうれしい。
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 私が食べているジャムパンはパン屋さんで作っているものではなく、スーパーのパン売り場で売っているやつである。ここ最近食べたジャムパンはPasco、ヤマザキ、神戸屋のものである。
 もちろん好みの問題なので、意見はいろいろあろうと思うが、この3つのうち、今一番好きなのがPascoのジャムパンである。ヤマザキのジャムパンはジャムが少ない気がするし、神戸屋のジャムパンはジャムに凝りすぎていて、パンになじまない感じがしている。その点Pascoのジャムパンはジャムがパンになじみ、なめらかである。味もくどくなく、すっきりしている。
 パンを半分に割って、そのパンの端をちぎって、中のジャムを付けて食べるのにちょうどいいなめらかさと量なのである。なので最近はスーパーへ行くとパン売り場へ行き、Pascoのジャムパンがあると買ってきてしまうのである。
 パンといえば昔読んだ五木寛之さんのエッセイで、五木さんがメロンパンに凝っていることが書かれていた。
 五木さんがメロンパンが好きだと書くと、それを読んだ読者が五木さんにメロンパンを送ってくること。それも結構な数が送られてきて、“配偶者”として登場する奥さんにイヤミを言われたことを読んで笑ってしまったことを思い出す。
 私の場合そんな心配は必要ないが、それでもことある度にジャムパンをかごに入れるので妻は呆れている。当分マイブームは続きそうな気がしている。
 パンでもう一つ思いだしたことがある。コッペパンである。子供のころ、近所の駄菓子屋とも言えるし、パン屋ともいえる汚い店があった。お店の横ではもんじゃ焼きもやっていた。そこでコッペパンを売っており、それにピーナツクリームや苺ジャム、それとミルククリームみたいなやつを好みでぬってもらう。
 好みのものをお店のばあさんに言うと、ばあさんは軍手の指のところを切った手で、ピーナツクリームや苺ジャムなど入っている四角い缶からへらみたいなやつですくいだし、半分に割ったコッペパンにぬりつけていく。われわれ子供たちは多くぬって、と頼み込むが、一向に言うことを聞いてくれないものだった。
 代金はいくらだったろうか?とにかく例の軍手の手でお金を子供たちから受け取る。だから軍手がいつも汚れていた。今から考えれば不衛生きわまりないところだが、当時は何とも思わなかったし、それで腹を壊したということもなかった。バイ菌なんていう観念など考えも及ばなかったし、いろんなものを触っては遊んでいたから、充分対菌性があったのだろう。


いなり寿司


伊集院静さんの本に次のようにあった。


 -義母が去ったということは、あの煮物を二度と口にできないということなんだ・・・・。(「夜半の花」 伊集院 静 著 『それでも前へ進む』に収録)


 伊集院さんの酒の肴を義母は週に一度こしらえて届けてくれていたそうだ。そしてその義母が亡くなって、あの煮物が二度と口にできないことを思い、改めて義母の死を実感するのである。
 この文章を読んで、自分にももう二度と口にできないものがあることを思う。それは母親の作ったいなり寿司である。運動会で食べたいなり寿司の味がいつまでも記憶に残っている。給食がない日に弁当を持っていく日が続いたときなど、さすがにレパートリーが尽きたのか、弁当にいなり寿司が入っている時もあった。私が好きだからそうなったのだろう。
 普通の油揚げに包んだもの、わざわざ油揚げを裏返して、豆腐の白い面を見せて包んだものと2色に別れていた。そこに必ず紅ショウガが添えてある。味は余り甘くなく、さっぱりしていた。
 母が死んでからも、外で売っているいなり寿司を何度か食べているが、母の味とは遠く離れたものだった。大体が甘すぎて、味付けも濃い。たぶん似た味には出会えないだろうと思っている。私の中で母の作ったいなり寿司がかなり美化されてしまっているからだ。
 そういえば、私の結婚式の前、会者と打ち合わせがあり、その時に母に関して何か思い出となるものはありませんか、と聞かれたことがある。私は母の作ったいなり寿司のことを話した。そしてそれが実際の式で司会者から紹介された。それを聞いた母は後で私に、「しょうもないことよく覚えていたわね」と言われた記憶がある。あの時も母のいなり寿司が懐かしかったのである。
 母が生きていれば、あのいなり寿司を作って欲しいということも出来ただろうが、今はそれさえも言えなくなってしまった。残るのはあの記憶だけである。
by office_kmoto | 2015-02-13 07:42 | Comments(0)

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