貼る

 南木佳士さんの「風鐸」にこんな文章があった。


 昭和四十四年初版の本は紙が濃い茶色に変色しているので強い陽射しの下で読んでも眩しくない。


 この文章が言っていることはよくわかる。新しい本で紙質が白っぽい本を陽射しの下でなくても、蛍光灯の下で読んでいると、文字が光ってしまい読みとれないことがある。その点古本はそんなことはない。まさに南木さんが書く通りである。古本はやさしいのである。
 ところで私は読んでいる本で気になった文章に出会うと、付箋を貼る。本に赤線を引いたり、ラインマーカーで塗るのが嫌なのである。というかそれが出来ない性格なのである。だから付箋を貼る。使っているのはフィルム素材のポスト・イットである。これは粘着力が強い上に、丈夫であるから、使い終わったら剥がして、何度も使えるから重宝している。
 しかしこれを古本に貼ると、ページの紙が剥がれてくる。古本であるために紙が劣化して、紙質が弱くなっているのだ。だから粘着力の強いフィルム素材のポスト・イットではダメなのである。それで困っていた。読んでいる本は古い本が多いので、このままじゃまずいな、と思っていた。
 ということで紙の付箋を買ってくる。これなら粘着力も弱いので、ページも剥がれない。古本にもやさしい。

 この付箋を手にして思い出すことがある。私が本屋の現場から、会社の経理に移った頃、会計伝票を苦労して仕上げて、会計士さんに渡したとき、帰って来た伝票が付箋だけだったのだ。問題のある箇所にすべて貼り付けてあった。
 最初は嫌な思いをしたが、もともと簿記の知識などまるっきりない人間だったので、知らないことが多くあったのでそれも仕方がなかった。
 昔の伝票を参考にしたり、本で学んだことを自分なりに駆使して書き上げた伝票であったが、やはり素人は素人である。それがべったりと貼り付けられた付箋が物語っていた。その時貼ってあった付箋がこの紙のポスト・イットであった。
 とにかくこの付箋が貼ってある箇所を解決しなければならない。私は何度も会計事務所電話を入れ、質問した。私がずぶの素人であることを知っている会計士さんとは月に何度も会社に足を運んでくれたので、その時は長いこと私に付き合ってくれ、問題箇所を丁寧に説明してくれた。私がとにかく形だけでも簿記を理解できるようになったのはこの人のお陰である。この人が教えてくれたから、最後まで会社にいられた。
 この会計士さんは寿退社して、後を引き継いでくれたのが税理士のMさんである。私はこの人からは、会社の経営のイロハを経理を通して教えてもらった。(2016年1月10日)
by office_kmoto | 2016-01-19 05:45 | 余滴 | Comments(0)

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