刻む

 私が今寝起きしている一階の部屋は、義父や義母が生活していた場所だが、二人がいなくなって、しばらくは誰もここで生活をしなくなった。
 家というのはそこで暮らす人がいなくなると、とたんに古ぼけてくる。痛みが出てくる。もちろん掃除はしていたが、動かなくなるものも出てくる。部屋の隅には蜘蛛の巣が張っていたりする。このままだとまったく一階は使えなくなるので、私が二階から下りて来た。
 一人でもそこで寝起きしていると、部屋は生き返る。もちろん細かいメンテナンスもしたし、掃除もこまめにしている。
 ただ掛け時計だけはどうしようもなかった。それぞれの部屋にある時計がみんな狂っている。進んでいたり、遅れていたり、正確な時刻を刻んでいるものはなかった。
 できるだけ部屋も部屋にあるものも、義父たちが暮らしていたままにしているので、時計もそのままにしていた。まあ正確な時間を刻まなくてもそれぞれの時計が5分進んでいる、10分遅れているとその状態を把握していれば、その時刻から逆算すればほぼ正確な時間がわかるから、問題ないといえば問題ない。それに時間に追われる生活をしている訳ではないので、そのままにしていた。

 甥っ子の結婚式の内祝いのカタログが届いた。今はこうしたお返しの仕方が一般的になっているようで、重い引き出物を持って帰るのを考えれば、これはこれで有り難い。
 こういうのってちょっとわくわくしながら何かないかな、と見繕うが、たいていはなにもない。ほとんどが家にある。といって何も申し込まないのももったいないし、失礼だから、妻と考えて、掛け時計をもらうことにした。今流行の電波時計にした。それを一階の掛け時計と替えた。
 式のときに引き出物としてもらったカタログと、後で結婚式の写真を整理して送ったお礼ということで、またカタログが送られてきたので、2台申し込んだ。
 今はこの2台の掛け時計が居間と和室にかかっている。仏間にはそれまであった時計の内、何とか正確な時間を刻む時計を1台残した。時計は捨てずに電池を抜いてしまっておく。
 正確な時刻を刻む時計はやはりいいものだ。どこか引き締まる気がする。時間が正確でないというのは、どこか間延びしてしまうのかもしれない。それに今の時計のデザインは洗練されているから、部屋のいいアクセントになる。
 時計が正確な時刻を刻むようになってから、また部屋が生き返ったような気がした。(2016年1月16日)
by office_kmoto | 2016-02-09 04:55 | Comments(0)

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