真山 仁 著 『そして、星の輝く夜がくる』

d0331556_5124472.jpg 東日本大震災で被災した東北三県から教師が足らないという要請を受けて、小野寺徹平は遠間市立第一小学校に赴任した。小野寺は阪神淡路大震災で妻と娘を失っていた。
 話は小野寺がこの小学校で子供たちを巻きこんで、被災地の問題を取り上げる。
 まずはクラスで「わがんね新聞」を小野寺は立ち上げる。わがんねとは東北弁で「やってらね」という意味で、小学生が被災地で感じる怒りをここに表現せよ、ということであった。子供たちは大人たちが被災から立ち直ることで精一杯になっているのを見て我慢していることがたくさんある。それをこの新聞で書いて、発散させようという主旨であった。


 大人たちよりも心が柔軟だからといって、彼らは本当に元気なわけでも、前向きな考えできるわけでもない。ただ、全てを失って呆然としている大人を見かねて、迷惑を掛けないようにという無意識の遠慮が働いているに過ぎないのだ。そんなものはクソ食らえだ。喜怒哀楽を素直に表すことができれば、子どもの心は健全に育つ。どんな時でも学校と教師は彼らを丸ごと受け止めるべきだ。


 この新聞を通して、原発問題、マスコミとの関係、ボランティア活動、そして被災した自分たちが時間が経つにつれ忘れられていくのではないか、という不安を物語に折り込んでいく。
 これらは復興の中で起こった軋轢とでも言うのだろうか。そんなものを被災地で小野寺に思わせる。


 あそこでは何人が亡くなっただの、どこそこでは死者がゼロだったのという記録をいくら知ったところで、今さらどうすることもできない。未曾有の大震災が起きて、誰もがたくさんの選択肢を突きつけられ、結果、亡くなった人と生き残った人に分かれたに過ぎない。ニヒリズムや無関心ではない。小野寺自身が抱える「痛み」と向き合って得た境地だった。(「さくら」)


 悲惨な場所で、頑張っている被災者という視点で、やたらドラマ仕立てに感情を煽るかと思うと、未曾有の天災だったにもかかわらず、それを人災と決めつけ、当事者の責任を徹底的にあげつらう。誰かのせいにしたいという被災者感情は致し方ないとは思うが、実際のところ甚大な災害において、加害者なんて存在しない。(「さくら」)


 多くのボランティアに助けられたことも事実だけれど、一方でボランティアの行動にも問題があり、それに対する不満も住民たちに広がっていく様子も書かれる。助けてもらっていて、文句は言えないけれど、少しずつ口に出して言っていく。それは、


 「とにかく生きなければという状況から、いろんなことを考える余裕が生まれてきた。不満が言葉になるというのは、自立の第一歩だと思いたいなあ」


 と小野寺の勤める小学校の校長が口にするのは真っ当のような気がする。
 震災から時間が経って、震災直後は繋がろう、絆とか言ってたくせに、しばらく経つとお荷物みたいに思っている人が増えたのではないかと不安がる母親たちに、小野寺は思うのである。


 それは否定しない。だからと言って、被災地以外に住む人の思いを(このように)一括りして詰ってよいのだろうか。皆、それぞれの生活がある。東北のことは気に掛かっても、仕事や家庭の雑事に紛れれば、発災直後の強い思いは消える。そういうもんじゃないのか。日常生活というなら、今まさにこの復興の途上こそが俺達の日常やないか。それと向き合っていたら他人のことなんか目に入らんやろうに・・・・・。(忘れないで)


 校長も「だったら、とっとと立ち直ればいいんです」と感情的に言う。この校長、なかなかの人物なのだ。

 最初この本を読んだとき、どこか二番煎じのような気がした。震災のこと、震災後に書かれたドキュメント、手記などいくつも読んでいるのでそう感じたのかもしれない。 実際この物語の構成に使われた参考文献は、私が読んできたものが多かった。だからか、ここに書かれている物語は新鮮味がなかった。こうして物語にする必要性は、もとのドキュメントや手記がある以上必要なのかな、と思ったくらいだった。
 あの震災のドキュメント、震災を経験した人々の手記から発せられる言葉はちょっとやそっと太刀打ちできない。それだけあの震災は甚大だった。少なくともそれをなぞった物語では難しいところがある。
 5年経った今年もあの時の津波の特集をテレビでやっていて、5年経ってわかってきたことを検証していた。しかし津波の映像は何度見ても言葉を失ってしまった。
 実は真山さんの東日本大震災をテーマにした本を後2冊図書館で借りている。これはちょっと厳しいなあ、と思っている。震災を主題にした小説でも何か別な要素があれば、読めるのだが。


真山 仁 著 『そして、星の輝く夜がくる』 講談社(2014/03発売)
by office_kmoto | 2016-05-14 05:15 | 本を思う | Comments(0)

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