角井 亮一 著 『アマゾンと物流大戦争』

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 ちょっと前に佐川急便の配達員が配達する荷物を路上に投げているのを動画に撮られて話題になった。詳しいことは知らないが、配達したのに受取人がいなかったため、頭にきて荷物に八つ当たりしたのだろうか。あるいは再配達して、またいなかったためかもしれない。
 お客の荷物に八つ当たりして、荷物の中身を破損させる恐れもあるから、その行為は許せないものではあるけれど、しかし気持ちはよくわかる。
 昔、本屋で働いていた頃、会社などに本の配達をやっていたことがある。その会社に働く個人にも本を届けていた。当の本人は何度行ってもいない。つけ払いのお客なら、近くにいる人に受け取ってもらうのだが、集金の時が困る。いつまで経ってもお金が回収できないのだ。それが気になるものだから、その会社に配達に行く時は、その人に配達すべき本がなくても、わざわざ寄って本人がいるかどうか確認する。手間がかかって仕方がなかった。そんなことを何度も経験しているので佐川急便のあんちゃんの気持ちはよくわかるのである。
 家にいて庭の掃除などしているので、宅配、郵便、新聞を配達してくれる人の顔をよく知っている。彼らが来ると挨拶するし、「ご苦労様」といつも声を掛ける。
 顔見知りの郵便配達人の二人が自販機の前で、バイクを止めて、缶コーヒーを飲んで一服しているのを何度か見かけたことがある。思わず「お疲れ様」と言いたくなる。

 そんなものを配達する人たちがいる物流が今、破綻しかけている。ネット通販の普及で、クリックするだけで簡単にものが届く時代を支えているのが彼らである。ところがあまりにもその量が多いため、また手間もかかるため、彼らの労働環境が悪化している。宅配業者はそうした従業員の労働環境改善のため、宅配料金を値上げすると言っている。
 では、その実体はどうなっているのだろうか。それを知りたくてこの本を手にした。
 この本はアマゾンがやっている物流が、その規模の大きさにものを言わせて、日本の物流のあり方、商売の仕方、経済まで変えていることをメインに書かれていて、末端にいる彼らの実体にはあまり触れていない。でもそのアマゾンが構築する物流のあり方は面白かった。そしてその物流のあり方をアマゾンと比較して他のネット通販業者はどういうものなのか説明してくれる。

 著者は次のよう言う。

 なぜアマゾンの急成長に危機感を覚えるのか。その理由は、彼らの本質が「ロジスティクス・カンパニー」であるからです。ジェフ・ベゾスが公言する通り、ロジスティクスこそ彼らの最大の強みなのです。

 ここのロジスティクス(logistis)とは、ビジネスの世界では、企業の物流合理化手段を意味する。そしてアマゾンの構築するロジスティクスに危機感を覚えるのかというと、

 ロジスティクスは非常に参入障壁が高いものだからです。洗練されたロジスティクスは、一朝一夕に築き上げられるものではありません。ゆえに、一度強固なロジスティクス網を張り巡らされてしまったら、外から見て真似ることもできず、それに太刀打ちできるロジスティクスを作るのに相当な時間がかかることになります。

 アマゾンは高度なロジスティクスを用いて低コスト化を実現し、その利益のほとんどを自社の物流ネットワークを築くために投資に回し、また顧客の代弁者としてさらなる低価格での商品提供のための原資として使います。それによって来客数が増え、売上高が増えれば増えるほど物流は効率化し、低コスト化していく。アマゾンはさらに低価格で商品の提供を始め、扱う商品の種類を増やし、また来客数が増え……。その繰り返しこそが、彼らにとって良循環であり、最大の武器です。この良循環がアマゾンの売上高を飛躍的に伸ばし、扱われる商品が次々と増えることこそが、隣接する業界ビジネスを行うすべての企業にとって脅威なのです。

 日本のネット通販大手といえば楽天だろう。その楽天はアマゾンと違うやり方で急成長してきた。アマゾンが総合ネット通販なら楽天はモール型ネット通販である。

 楽天は、さまざまなネット通販会社に出店してもらうことで、どこよりも早く充実した品揃えを実現しました。現在の店舗数は4万を超えています。買い物をするときには、店舗が点在しているよりも、ショッピングモールのように1か所に集まっていて品揃えが充実しているほうが便利です。これはネット通販でも同じでした。豊富な品揃えを武器に、たくさんの店舗を巻き込むことで楽天は急成長しました。
 これを裏側から見れば、要するに楽天は物流をそれぞれの店舗に委ねていますので、余計な時間がかからなかったともいえます。繰り返しになりますが、ロジスティクスは積み上げであり洗練されてくるまでに相当の時間がかかるものです。大きな投資をして物流センターを築き、システムを作り、運用のノウハウを積み上げてステップを踏む必要があります。そもそも楽天のようなモール型EC(電子商取引)サイトは、ロジスティクスのノウハウを必要としていなかったため、立ち上がりのスピードが速かったのです。

 しかし今、楽天は苦戦しているという。それはモール型ネット通販の弱点がそうさせている。その弱点とは、

①物流品質のばらつき。
 物流がそれぞれの店舗に任されているので、商品の保管状態、梱包、配送が悪い。

②ボリュームディスカウントが出来ない。
 それぞれの店舗が個別にメーカーから仕入れるので、メーカーから大量に買うことで割引してもらうことができない。それは配送料においても同じ。

③お客にとって利便性が悪い。
 商品をモール内の違う店舗で買うと、それぞれの店舗から配送され、それぞれに配送料がかかってしまう。

 これらのデメリットが現在顕著になってきて楽天のようなモール型通販は苦戦しているいう。

 ここで興味深いことが書かれる。最近の宅配業者抱える問題である。
 宅配業者はかつて40社を超えていたが現在は21社と2分の1まで減少しているという。しかもヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の寡占化が進み、上位3社の合計は92.5%になる。特にヤマト運輸は45.4%と宅配便市場の半分弱を占める。そのためヤマト運輸の動向次第でネット通販会社は値上げなど応じざるを得なくなっている。
 配送料の値上げの背景には、慢性的にトラックドライバーの不足がある。なぜトラックドライバーが不足してきたかというと、運転手の給料が相対的に安くなってきたことによる。
 キッカケとなったのは1990年に政府が行った運送業者に対する規制緩和である。政府は運送業界に新規参入を増やすために、運賃を業者が自由に設定出来るようにし、トラック最低保有台数を5台まで引き下げた。これにより1990年には事業者が約4万であったのが、2007年には約6万3000まで達する。しかしこれら新規参入業者の大半は零細事業者であったため、大手の下請け、孫請けになり、そうなるとどんどん手数料を引かれていくので、採算性が悪くなってしまった。当然ドライバーの給料にその影響は出て来る。そのため賃金を維持するためにドライバーは長時間労働して以前の給料を維持しようとする。しかし一方で長時間運転の規制が厳しくなり、それも出来なくなってしまっている。そのため、若い担い手が枯渇し、ドライバーの高齢化が進む。このため高まる需要に対してトラック業界は対応出来なくなってきているのだ。
 もう一つの問題が、「再配達」である。この再配達ほど物流において効率が悪く、コストがかかる。しかもそのコストはすべて運送業者の持ち出しである。
 佐川急便はピーク時対応のコストがまかなえないほど追いつめられ、最大の荷主であるアマゾンとの交渉が決裂し、2013年契約を打ち切った。

 アマゾンにとって配送費の増加は悩みの種です。2014年度に配送費が1兆円超え、2015年度の売上高に占める配送費率は11.6%となり約1.3兆円まで拡大しました。日本の宅配便業界の最大手であるヤマト運輸の配送事業規模が約1.1兆円であることを考えると、アマゾンがいかに巨額を宅配会社へ支払っているか、その規模の大きさがわかるのではないでしょうか。ヤマト運輸の宅急便など配達に関わる売上を超える配送料をアマゾン1社で支払っているのです。
 アマゾンは大手宅配業者の値上げにより「利益が出ない=自社で利益をコントロールできない」ことに気づき、配送費比率が上がり始めたことをきっかけにして、ラストワンマイルの戦略を切り替えることになるのです。

 ネット通販の差別化を考えるとき、2つのことが重要になる。一つはストックポイント(stock point)である。ストックポイントとは配送のために在庫を置いておく場所のこと。物流は顧客が買いやすい場所まで持っていく(配達する)ことが役割であるので、ストックポイントが顧客に近いほど利便性が高くなる。
 もう一つがラストワンマイル(last one mile)である。これはストックポイントとなる物流センターからお客の家まで商品を運ぶ「配送」の最後の区間を意味する。この最後の区間をどのような形で配達するかで差別化出来るかどうか、それが勝負の分かれ目となる。
 ここでアメリカウォルマートの例を出す。ウォルマートはまず物流センターを先に作り、そこから店を作るという。これはストックポイントを先に作ることで、物流をスムースにさせるわけだ。
 そのウォルマートが成長したキーワードが「EDLP(Everyday Low Price )」である。
 EDLPでは、一定期間のセールなどで価格が上下することがない分、顧客の需要も一定して予測出来る。物流センターにおいても稼働率が安定する。
 日本では現在ウォルマートの子会社にあたる西友の毎日が「カカクヤスク」とうたってやっている。
 一方普通日本の小売業界は「HILO=特売価格」で集客している。ただHILOはセール期間中予測不能な需要が立ちあがり、物流センターにおいても、その期間稼働率が逼迫し臨時のパートなど雇用しなければならなくなる。メーカーも同様にその期間稼働率が急激に上がる。また顧客の急激な需要増加がメーカーに伝わるまでに時間がかかりタイムラグが生じ需要予測に間違いが生じる。このためHILOで店舗運営するのは非効率なのである。

 話はまとまりがなくなるが、私がアマゾンでよく使うマーケットプレイスのことが書かれているので、それを書いてみよう。

 アマゾンが成長するためのドライバー(駆動力)となっているのが「品揃え」と「低価格(EDLP)」です。アマゾンは、この二つを実現するためには何でもやる会社です。その印象を決定づけたのが、2000年に導入された「マーケットプレイス」と呼ばれる仕組みです。別名「サード・パーティー・セラー(第三の販売者)」といいます。
 例えば、サード・パーティーであるブックオフのような新古書店が出品する本が、アマゾンが販売する新刊本の横に並んでいます。その本をアマゾンから買うか、それ以外の売り手から買うかは顧客が選ぶという仕組みです。もしサード・パーティーの商品のほうが安かったり、もしくはアマゾンが在庫を切らしていたりして、サード・パーティーの商品を顧客が選んだ場合にはアマゾンは売上を失いますが、販売者から手数料を受け取る仕組みです。

 この発想は創業者ジェフ・ベゾスの考え型に基づく。

 「アマゾンより安く売れるところがあれば自由に売ってもらい、顧客が満足すればいい。価格競争でサード・パーティーに負けるならば、アマゾンが安く売れる方法を考えるべきだ。サード・パーティーがアマゾンにない豊富な品揃えを実現してくれる手助けをしてくれて、顧客がアマゾンを利用してくれればいい」というものでした。

 それだけでなく、アマゾンは自社の物流センターを他社が利用できるようにする。FBA(Fulfillment by Amazon:フルフィルメント・バイ・アマゾン)というサービスである。これはサード・パーティーのために、受注や決済だけでなく物流ソリューションまでアマゾンが肩代わりするサービスである。これにより、

 アマゾンは自社の物流システムを磨き上げた結果、FBAのように自社の物流システムのプラットフォームをサード・パーティーに使ってもらうことでも利益を上げられるようになり、さらに物流センターの稼働率を上げることで効率化を図れるようになったのです。

 まさしく転んでもただでは起きないという感じだ。そして最後に著者はアマゾンと競い合うために3つの戦略をあげる。

 ①ラストワンマイル
 もはやスピード配達を競うだけの時代ではなくなっている。顧客の望むより正確な時間に、指定された場所に届けることが求められている。そのためにヨドバシのような自前配達を構築するアプローチもある。コンビニや店舗受け取り、宅配専用ポストの構築など、ラストワンマイルの競い方で今まで以上に多様性を持っているから、そこに戦略を立てることが可能になってきている。

②独自の商品を持つ
 ネット通販が当たり前になった現在、エブリシング・ストアに置かれない商品をどのように自社に取り込むかが勝敗を分ける。

③ネット×店舗(オムニチャンネル)
 「オムニチャンネル」とは最近よく耳にする。セブンイレブンでは「オムニセブン」といって展開している戦略だ。すなわちオムニチャネルとは、店舗やイベント、ネットやモバイルなどのチャネルを問わず、あらゆる場所で顧客と接点をもとうとする考え方やその戦略のことを言うらしい。

 ワンクリックで荷物が届く便利さは本当にすばらしいものですが、自動販売機のような味気なさが残る人もいるはずです。

 これである。
 今のところネットでしか存在価値を見いだせないアマゾンは店舗がない。一方店舗を実体として持っている企業は、店舗を持っている強みをネット通販と連携して発揮できる。店舗があるからこそ、その利点を生かせる。店舗でお客と直に接することが出来るからこそ、そこで店舗で培ったノウハウをネットで生かせる。この利点を生かして、商品を展開する。また商品を店で買って良し、ネットでもOKとなれば、店で商品を手にしてからネットで買ってもいい。実際商品の購入はネットでという販売しないショールーム的な店舗も出来ているそうだ。

 おそらくアマゾンはこれからもあれやこれや手を替え品を替え、自分の立場を維持していこうとするだろう。けれどネット通販の最後の部分、商品の配送という部分を、他者に依託している以上、これまでのようには行かないのではないか、と思う。少なくとも今度のヤマト運輸の料金値上げは、何らかの形でアマゾンに影響を与えるだろう。
 そしてやっぱり物流のシステムを確固としたものにしているアマゾンは、これを乗り越えていくのだろう、とも思う。こんなことはアマゾンにとってこれまであったことの一つに過ぎないのだろう。なんと言っても体勢を確立したものは強い。

角井 亮一 著 『アマゾンと物流大戦争』 NHK出版(2016/09発売)NHK出版新書


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by office_kmoto | 2017-09-07 18:55 | 本を思う | Trackback | Comments(0)

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