コーフェンノン/フレディエ 著 /並木 佐和子/吉田 春美 訳 『貞操帯の文化史』

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 歴史には“異様なもの”を残すことがある。当時はそれらはまじめに使われていたものだが、今残ったものを見ると、なんでこんなものを、と思う。たとえば、先のヴェネツィアの医師たちの格好などもそうである。
 おそらくそんな“異様なもの”は他にもあるだろうな、と思い、ネットで探してみると貞操帯というのが見つかる。確かにこれもその一つだ。それで貞操帯を扱った本があることを知り、図書館にも蔵書していることがわかり借りて読んでみた。
 ところで、この本の序文に次のようにある。

 世間に流布している誤った説では、貞操帯の使用は十字軍の時代にさかのぼるとされている。そう信じられたのは、次のような理由からである。つまり、長期間の遠征に出かける領主たちは、妻の貞操を守る必要があると考えたが、このような野蛮な器具を考案する以外に、有効な手段が見当たらなかったというわけである。しかし、そうした事実をうかがわせる資料は、歴史においても風刺文学においても、何ひとつ存在しない。

 私が知っているのも、貞操帯が広まったというか、使われたのは十字軍の時代だったというものであった。当時の領主たちの妻は略奪婚や政略結婚で結ばれた者たちが多かったから、猜疑心の強い領主は自分がいない間、妻が昔の男や間男などと関係を持ってしまう可能性が大きかった。だから物理的にそういう行為が出来ないようにした。
 でも考えてみれば、何も十字軍の時代でなくても、そういう病的に猜疑心の強い男どもはいつの時代にもいるはずで、似たような行為にでる男がいても不思議ではない。ただ器具として貞操帯というものが形として残ったということなのだろう。まあ、どうでもいいことなのだが。

 非常に利己的な見方をすれば、女の体は男の快楽の食料棚のようなものであり、どこかの闖入者がおいしそうな食べ物を失敬し、お菓子をむしゃくしゃ食べてしまわないように、食料戸棚に錠をしておくのは、しごく当然な話なのである。

 貞操帯が発明され使用されていたのは、もっぱらイタリアにおいてである、というのが、少なくともフランスでは一致した意見である。ディドロはフィレンツェの器具と呼んでいるし、ヴォルテールはローマとヴェネツィアで一般的に使用されていると信じた。サン=タマン[訳注:バロック期の詩人]は、古代ローマの女性の大多数が、当時、鉄のカルソンやベルトを身につけていたと言っている。
 ラブレーはパニュルジュ[訳注:『パンタグリュエル物語』の登場人物]にこう言わせている。「わが後宮から出かけるとき、女房にベルガモ式の錠をかけることにいたします。さもなくば、白目のない悪魔にこの身をさらわれたほうがましでしょう」。この表現からうかがえるのは、ベルガモの人々は他のイタリア人にもまして、こうした一種の機械仕掛けの囲いをよく使っていたらしいということ。あるいはベルガモの錠前作りたちが、この種の器具の製造にかけて、薄刃の剣の焼き入れでトレドの武器製造業者たちが好評を得ていたように、優位に立っていたらしいということである。

 こんなものに優位も喜ばしいものでもないと思うのだが。もっとも忍び込んできた男が女性を前にして、貞操帯を着けられているのを見たら、ぎょっとしただろうな、と思ったりするし、夫の方はしてやったり、と思ったのだろうか。
 さて、女の方もこの貞操帯を愛の証として使ったことが書かれている。

 ああ、ようやく、美しき女性がわたしを抱擁した
 そして、一つ鍵を取り出した
 それは黄金でできていて、名人の手になるもの
 美しき女性は言った
 「この鍵をおもちになってください
 けっしてなくさないでください
 なぜなら、これは、私の宝物の鍵
 あなたのために、黄金で作らせました
 ですから、何よりも大切に、もっていてください
 わたしの右目よりも、これを愛してください
 なぜなら、これは、わが名誉、わが富
 これこそ、わたしが差し上げることのできる贈り物なのです」

 「わたしがもっている小箱の鍵をなくさないように気をつけてください。もしなくなったら、わたしは二度と完全な悦びを得ることができなくなるのです。なぜなら、神様だて、あなたがおもちの鍵でなければ、この小箱はけっして開かないのですから。あなたの気が向いたときだけ、この小箱は開くのです」

 「わたしのもつ鍵は、とても豊かで優美な宝物の鍵。その宝物である小箱のなかには、あらゆる喜び、あらゆる優美、あらゆる優しさが詰まっているのです。なくさずもっていますから、どうぞ心配しないでください。あの愛の宝物の優美、栄光、豊かさを見たくなったら、できるだけ早く、鍵をもってうかがいます」

 性本能のおもむくままに行動する異常者についてわずかでも知っている者にとって、別に奇妙に思われないだろうが、女性の中にも、体の一部を軟禁しようとする嫉妬深い残忍な男に抵抗するどころか、喜んでそれに応じ、そうしてほしいと懇願までするようになる者もいる。

 ということらしい。わからんな……。

コーフェンノン/フレディエ 著 /並木 佐和子/吉田 春美 訳 『貞操帯の文化史』 青弓社(1995/02発売)



by office_kmoto | 2017-09-10 06:27 | 本を思う | Comments(0)

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