マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー 著 /柳沢 由実子 訳 『 消えた消防車―刑事マルティン・ベック』
2018年 10月 02日
男はベッドに仰向けに横たわり、口にピストルを突っこんで撃ち放った。男はメモを残し、そこにはマルティン・ベックと書かれていた。
グンヴァルド・ラーソンは臨時に駆り出され、ユーラン・マルムが住むアパートを見張っていた。警官と交代してそのアパートを見張っている時、大きな爆発が起こり、火災が起こった。
ラーソンはからだを張って、アパートから飛び降りる住人たちを助けた。ところが呼んだ消防車が一向に来ない。消防車は最初に電話があってから、もう向かっていると言っていた。
ベックたちは捜査を始めるが、結局爆発した部屋にいたマルムがガス自殺したというところに落ち着きそうになった。ところがマルムのベッドには特殊な時限爆弾が仕掛けられていたと鑑識から連絡がある。
マルムは生前、盗難車を斡旋していたバッティル・オーロフソンと会っていたが、そのオーロフソンも見つからない。そんなときベックの友人的存在でもあるマルメ警察のモンソンが海に落ちた車があると通報を受ける。そしてその車にはオーロフソンの遺体があった。ソックスに入れた石で撲殺されていた。マルム、オーロフソンはどうやらプロの殺し屋に殺された。ただしマルムは殺される前に自殺していて、その後時限爆弾が爆発したのだ。マルムもともと殺される運命でもあった。マルムが自殺したのはベックの名を書いたメモを残して自殺したエーンスト・シングルド・カールソンの自殺を知って自分も逃げ切れないと思ったからであった。マルム、オーロフソン、カールソンは自動車をストックホルムで盗んで、塗装してナンバープレート、書類など偽造して国外に売るシンジケートに属していた。ただ彼らはシンジケート抜きで、自分たちでそれをやろうとして失敗し、逃げ切れず、自殺し、殺されたのであった。
ところでグンヴァルド・ラーソンが待っていた消防車が来なかった理由はマルムが住んでいたアパートの地名と同じ地名が他にもあり、消防車がそれを間違えたことによる。
これまで最初に高見訳ずっと読んできたところが大きいのだろうが、基本的に新訳であるメリットはそれほど感じることがなく、むしろ比較してみると旧訳の高見浩訳の方が好きであった。
でも好きなこのシリーズをまた読み直す機会が新訳と比べることで出来、それはそれで楽しんできた。
ところがこの文庫にある「訳者あとがき」でこの新訳のマルティン・ベックシリーズはこれで打ち切りとなったと書かれている。
いくら訳者や解説者が古い警察小説でも内容は古びていないと言っても、なにせもう50年以上前の話である。やっぱり売れないんだろうな、と思う。それに売れるときはガンガン攻めてくるが、売れないとわかるとすぐ手を引きことで有名な角川である。一部マニアには受けても、売れなければ、そりゃあ打ち切りとなる。
新訳を楽しみに毎年1冊の新訳を手にし、旧訳と読み比べる読み方が楽しかっただけに残念である
このシリーズは全10巻となっているが、残りの5冊はどうなるのか。機会があれば新訳の続行をしたいと訳者は言っているが、どうやらこのまま終わってしまうみたいだ。残念である。
マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー 著 /柳沢 由実子 訳 『 消えた消防車―刑事マルティン・ベック』KADOKAWA(2018/04発売)角川文庫