山口 瞳 著 『温泉に行こう』

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 山口さんの紀行文をまた読みたくなった。山口さんはゴシップ好きである。芸能界から当時巷で話題になった人物たちのゴシップを散りばめ、たとえに使ったりする。読んでいて俗っぽいのだが、それが笑ってしまう。
 山口さんには新潮社の編集者が歴代付いている。それぞれニックネームが付いて、フミヤ、都鳥、パラオ、スバル、臥煙と称される。このお伴の編集者がいい味を出す。
 今回もと旅行会社に勤めていたスバル君が山口さんの温泉旅行に付き添う。
 ただ山口さんにつき合うのは結構大変のようだ。旅の途中入れ歯が壊れたり、感冒性腸炎になったり、その都度スバル君が駆けまわる。

 「旅の者が難儀しております」
 
 とその町の医者に駆け込む。でもそんなドタバタ旅行でも、行きつけの店や旅館に行って、さりげなく旅や人生を語る。

 函館に行ったら銀花へ寄ろうと思い詰めていた。そこへ行ったらママさんが僕のことを覚えていてくれた。それだけのことである。他に何もない。あまり意味がない。しかし、これが人生だという感情はどこからか湧いてくるのだろう。そうして、僕は、この世に生きるということは、こういうことであるに過ぎないという思いが、なおも激しく去来するのである。

 旅は、それがどんな旅であっても、常に冒険旅行であることを免れない。

 そして、

 温泉旅行というのは、家に帰って、自分の家の風呂に入って疲れを癒やしたときに終るのだとも思っている。

 とこの本は締めくくる。いずれもさりげなく、しかしまったくその通りだと思わせるところは、山口さんのうまいところだ。

山口 瞳 著 『温泉に行こう』 新潮社(1985/12発売)新潮文庫


by office_kmoto | 2018-11-04 05:48 | 本を思う | Comments(0)

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