川本 三郎 著 『ミステリと東京』
2019年 04月 09日
普通ミステリーと言えば犯人捜しがメインになるから、そこに描かれている風景に目をあまりやらない。しかし考えてみれば犯人捜しは、町歩きになるから、それが舞台が東京となれば、必然的に東京の風景を描写することになるわけだ。
また、
アンダーグラウンドに生きる者こそが、都市をその隅の隅にいたるまでよく知り得る。
犯人たちの行動を見ることは、その都市の表も裏の顔を見ることになる、と川本さんは言う。こういう川本さん流のミステリーの読み方も楽しいかもしれない。
川本さんは言う。
明治以来東京はつねに「普請中」だから、変化が激しく、かつてあった景観がどんどん変わって行く。もちろんこの失われた東京を歴史的背景を使ったミステリーもあるが、耐えず「普請中」だから、そのミステリーが発表された当時は新しくても、時間が経つうちに、期せずして、そこに詳しく書き込まれた風景がノスタルジーを生んでしまうこともある。
そこで個々に挙げられているミステリーから東京の特性をいくつか書きだしてみる。
東京はこの二つの災禍(関東大震災と東京大空襲)によって大きく変わった町である。
都市生活の特色は、誰でも容易に匿名の個人になれることにある。その匿名性は、ムラ社会にはない、個人の自由を与えるが、同時に、個人を犯罪の闇に惹きよせる。
はなやかな消費都市になっている現代の東京ではつい忘れがちであるが、東京はついこのあいだまで日本最大の工業都市だった。昭和四十三年のデータでは東京の工場数は全国の一三・八パーセント、従業員数一二・九パーセントで、これは大阪を抜いて日本で第一位。つまりこの頃までは東京は「工業都市」だったのである。
ここに紹介されたミステリーはネタバレを防ぐため、知りたいところで切ってしまうので、ついついその先はどうなの?と気にかかる。そのためまだ読んだことにないミステリーはついつい読みたい気分にさせられる。いくつか近いうちに読んでみようと、書名をメモした。
川本 三郎 著 『ミステリと東京』 平凡社(2007/11発売)