〇澄田 喜広 著 『古本屋になろう!』
2022年 11月 07日
それは箱入り本の箱のことである。ここでの説明では差し込み式のものを「函」と書き、ふたがあるものを「箱」と区別するとあった。私が箱入り本と書いたものは函入り本だったのだ。
さて、この本は古本屋を始めたい人のためのノウハウを書いた本で、如何にして古本屋をやっていけばいいかを指南している。まず、古本とは何か。
出版社がいま現在取り扱っていない本をストックしておく役割を担ってきたのが古書店なのです。
古本屋は、お客様から買い取った本を、さらに別のお客様に売る商売です。したがって、新刊書店が売れていないと商売にならないという前提があります。
例えば、実家の本棚にある祖父が残した本は、「古い本」であるのは確かですが、古本とはいえません。一度誰かが所有したあとに、古本屋に買い取られて、もう一度商品になっている本が古本です。それがお客様の本棚に収まったら、もう古本とはいえず、ただの「本」になってしまいます。
もとの所有者から買われて次の所有者の手に渡るまでが、「古本」というものなのです。つまり、本が古本になり、また本へかえっていく-その手渡しをするのが古本屋の仕事です。
古本屋とは何か、なんて考えたこともなかったが、こうしていわれてみれば、「なるほど」と思う。
で、読んでいくと、仕入の方法は違うけれど、本を売るということでは、新刊書店となんらかわらないものなんだな、と知らされる。その棚の構成の仕方、工夫など、本が古本か新刊かの違いでしかない。
八百屋や魚屋であれば、一日の終わりには店に何も商品がなくなるかもしれません。食べ物は安くすれば必ず売れるので、定休日の前日には、すべての商品を値下げして売り切ってしまうこともできるでしょう。しかし本はいくら安くしても、読みたくない本を買ってもらうことはできません。常に大量の在庫を抱えて、その一冊をほしがるただ一人のお客様を待つしかないのです。
転売を目的とする人を除けば、古書は価格弾力性がきわめて低い商品だといえるでしょう。
新刊書店は再販制度の縛りがあるから、値引きは出来ない。まったくと言っていいほど価格の弾力性がない。そして古書も安ければ売上が上がるというものではない。いくら安いからといって、まったく必要のない人が買うわけがないのだから。
また各々の読者の欲求を満たすためには在庫を抱えないとならない。店で本を数多く抱えないとならない事情は新刊書店も同じだ。
違いは古本屋の本はすべて自前だが、新刊書店はそうではないというだけのこと。その分、古本屋は在庫管理はシビアになる。
面白いことが書かれていた。
古書業界は、新刊を扱う出版業界に遅れること二十年で、同じ未道を歩んでいると思われます。ですから、ここ十年の古書業界の動きを知るには、その二十年前、つまり一九九〇年代の出版界の状況をみていく必要があります。
そして1990年代とは70年代から始まった大量出版時代の20年であった。それで古本業界はどうなったか。
一九九〇年代には、大量出版の波がいよい古本業界にもやってきました。新古書店の到来です。九〇年にブックオフ一号店がオープンし、九四年には百店舗に達しました。
新古書店は一般書の専門店です。つまり、大量に同じ本があることが前提になっています。大量出版時代は一九七〇年代からおよそ二十年間でした。この間に蓄積された「同じ本」の山が新古書店を出現させました。しかし、次第にそういうものは減っていくでしょう。
ごく一部のベストセラーを除けば、名が知られた作家の本であっても、意外なことに数千部程度の発行部数しかないケースも珍しくないのが二〇〇〇年以降の出版業界の流れです。そうしたことから、大量出版時代の遺産を使い果たした新古書店がいずれ発見型総合古書店へシフトしてくる可能性もあるのではないでしょうか。
なるほど、ブックオフが出現した理由が1970~90年代の大量出版時代があったからで、「同じ本」があったから成り立っていたのだ。
ところが現在2020年。20年遅れで古書業界に影響が出て来るという理論からいえば、2000年代から始まった発行部数の激減は今、大きな影響を及ぼしていることになる。実際そのようである。著者は新古書店は発見型総合古書店へシフトしていくのでは、と言っているが、ブックオフは本だけでなく、フィギュアや中古家電、あるいは衣服へと、ある意味、何でも中古品を扱うという舵を切りつつある。本だけやっていたら、いずれ頭打ちになることをちゃんと見ている気がする。このあたりは純粋な古本屋との違いを感じる。
最後に、
新古書店は一般書の専門店なので、どんな本でも買い取るわけではありません。とくに一般書は、多くの場合、品揃えが陳腐化するサイクルが早いので、常に新しいものだけを買うという新古書店のやり方はビジネスとして正しいのでしょう。
ブックオフは出版されて新しければ新しいほど買い取り価格が高い理由はここにある。でも私なんか新しい本より、110円で売っている本の方に魅力を感じる方なのだが・・・・。
澄田 喜広 著 『古本屋になろう!』青弓社(2014/08発売)